ASIANCUP2007総評
半分くらい見れなかったんだけども、奇しくも私の見れなかった試合の日本代表は勝率は高く、見た試合の勝率は低かった。というわけで、オーストラリア戦の勝利の瞬間しか見ることができず、個人的にはフラストレーションがたまった。とはいえ、結果は残念だったけれども、日本代表にとっては収穫も課題もあり、それなにり有意義な大会になったんじゃないかと思う。
収穫と思った点 ・フルに6試合戦えた。しかも、オーストラリア・韓国・中東と戦えた。 ・日本代表また各国の現状を推し量ることができた。 ・中澤の復帰。高原の復活(おそらく得点王)。 課題と思った点 ・選手層の薄さ ・戦術(+アイデア)の少なさ ・中村俊輔・千葉組への依存 簡単にまとめるとこんな感じ。 まず、フルに6試合、しかもまんべんなくいろんなタイプと戦えたのは収穫だったと思う。しかも、北京五輪への最終予選では、今回戦ったカタール・サウジアラビア・ベトナムとあたる。U-23とはいえども、A代表と足並みをそろえることも多く、重なるメンバーもいる。 それを踏まえた上で、日本のアジアの中での位置がだいたい推し量れる。上位であることには間違いないが、ワールドカップの出場枠が与えられるトップ4(正確には4.5で、2グループの上位2チームだが)に入れるかは流動的なところだろう。他国の動向を見ると、韓国は3位に食い込んだものの監督は辞任してしまった。オーストラリアも若返りの最中で、またアジアの不慣れな環境もあって、実力を発揮できていない感がある。この2チームにおいてはチームを立て直してくるだろう。サウジアラビアは優勝はできなかったけれども、チームとして脅威は充分感じ取ることができた。もっと成熟度が増したら、ワールドカップでも良いところまでいくかもしれない。サウジアラビアとの試合は不運よりも実力不足を痛感した。 さて、日本代表はというと、中澤の復帰、高原の復活(たぶん得点王)にはワクワクした。他にも地味に活躍した選手はいるけれども、この大会ではこの2人がチームを引っ張った印象がある。中澤はまだまだやれるし、高原はブンデスリーガでの調子をそのまま持ってこれた。これは嬉しい収穫。 課題と思った点は、単純に今後不安に思った点である。 まずは選手層の薄さである。今回は監督の意図によりスタメンをほぼ固定したようだが、それでも目に見えて主要選手の代役がいないのは明らかだった。例えば、上で名前を挙げた、中澤・高原に代わる選手が見あたらない。代役とまではいかなくても、もし、彼らの調子が悪かったら、ここまでの結果はでなかったかもしれない。たらればの話だけども。 また、若手を使わなかったのか使えるチャンスがなかったのか分からないが、あまり有意義にではなかったかもしれない。しかしながら経験を積むという点では収穫だった。 さて、戦術についてなのだが、率直な印象としてはクラブワールドカップの決勝戦を思い出した。ここ数年、南米クラブが勝利しているのだが、それはいずれも手堅い戦術によるものだった。欧州のクラブはいわゆる「魅せる」サッカーであった。たいていは南米クラブの術中にはまり、欧州クラブはボールを持たされ、南米クラブは隙をみてカウンターをしかける。南米クラブは得点をあげるとがっちり守りを固め逃げ切ってしまう。日本vsサウジアラビアの試合は少なからずこの展開に似ていた。2度、同点に追いつたことは評価できるが、3点目の失点は相手の個人技とはいえ実力不足を感じざるを得ない。 今回の大会を通じて、相手が守りを固め、ボールを持たされる展開がほとんどだった。そして、10人になった相手に2度も勝ちきれなかったのは不運というよりも戦術の少なさだろう。試合を見ていると、何度かのトライアル(パワープレーにでたり、前線をかき回す選手を入れたり)をしているのは理解できるが、むしろ、それだけである。通用する相手には勝てたが、通用しなかった時にどうするかだ。そこで選手たちのアイデアを期待するしかない。そこをアイデアが通用しなかったという不運でとらえるか、実力不足ととらえるか。 オシム監督は妙な示唆をしている。「戦術的な選手の配置については、1人の選手が複数の役割を担わなければならないスタイルだ。だから選手がもう少しだけ、個人のテクニックを上げることができていたら、さらに2、3人のよりスピードある選手を使うことができた。」と会見で言及している。 そこで、中村俊輔と千葉組への依存が不安になる。まず、中村俊輔についてだが、今回は絶好調とはいえなかった。とはいえ、絶不調ともいえなかっただろう。彼のプレーはわくわくするし、見てて面白い。彼を生かすために、中村(憲)や遠藤らを配置しているのだけれども、良くも悪くもプレーの質が大会を通して均質化してしまった気がする。ある一定のパフォーマンスは保証できるが、それ以上でもそれ以下でもない。原因はよく分からないが、俊輔を生かす戦術のはずが、俊輔が埋没している。 オシム監督の意図を体現する選手として阿部を含め教え子たちがいるジェフ千葉組が多く選出されている。阿部・巻・羽生・山岸。正直、彼らより能力が高い選手はいるとは思うが、使い勝手がよいのか、新しい選手に教えをすり込むのに時間がかかるのか、結局、(特に攻撃的中盤に関して)彼らに依存している部分が多い。できれば、太田や水野をもう少し長い時間使って欲しかった。 もしかしたら「ポリバレント」の認識が監督と選手の間でズレているのかもしれない。複数のポジションを「こなす」とは言うけれども、日本人は「ポジションありき」なのである。サイドバックはサイドバックの動きを、ボランチはボランチの機能を果たさなければならない。オシム監督はその事を言っているとはとても思えない。 かつて、中田英寿がボランチへのコンバートについて日本では妙な議論がおこった(マスコミの間だけかもしれないが)。ジーコ監督や本人や選手たちは別段違和感なかったかもしれないが、彼は彼の役割をすれば良いわけで、プレースタイルを変える必要などなかったのである。 オシムジャパンの中で良い傾向が見えるのはセンターバックをつとめた阿部だ。彼はもともとボランチでフィードキックに定評があり、FKだってうまい。けれども近年はFK時でもヘディング要員になったり、サイドバックもこなす。では、ポジションごとにプレースタイルを変えているかといえばそうでもない。阿部は阿部のままなのだ。 つまり、もともとの能力の幅が広がれば複数のポジションをこなすことは容易で、むしろ必要になってくるのは「柔軟性」あるいは「臨機応変に対応する能力」なのである。 この大会中、日本は臨機応変に対応できただろうか。 いや、むしろ日本人はその能力に長けている方だと思う。勘がよければフィジカルやテクニックすらある程度カバーできる。いわゆる試合の流れを読む能力であるとか、パスコースを読む能力であるとか、ゴールへの嗅覚であるとか。 それに長けている選手はどちらかというとスペシャリストだ。会見のコメントから解釈すると、スペシャリスト(水野やら)を使う余裕がなかったのかもしれない。おそらくは「まずはベースを築いて、オプションを増やす」ということなのだろう。 オシム監督は「韓国のチーム力は、サウジアラビアよりはるかに上だったと思うが、2ストッパーとボランチでも大きな破たんはなかったと思う。もちろん、人間だからミスは出る。サウジアラビアに負けたが、もう一度、同じチャンスを与えた意味はそこにあった。もっとも、そのチャンスを生かせたかどうか。チャンスは3度ないかもしれない。私の故郷サラエボのことわざで「同じチャンスは2度来ない」というのがある。それを2回与えて、結果を出せなかった人間には、もうチャンスはないかもしれない。」とすら言っている。一見、誰かがもう招集されないという解釈もできるが、衒学的な話題かもしれない。 とりあえず、これでワールドカップをゴールとすると折り返し地点にきたと思う。一応、これで日本としてベースができたと解釈している。それほど大きな改変はないだろう。私の期待としては、中村俊輔・千葉組からの依存度を下げて欲しいが、これはどうなることやら。 大きな改変があるとしたら、北京五輪組の成長次第だ。まだ、本大会に出場できるか分からないが、もし順調に行ったとして、活躍・成長次第では、スタメンに五輪組が入り込むことも考えられる。選手層を厚くするにも、一回りも二回りも大きくなって欲しい。 随分と長く考察してしまったが、あまり偉そうなこと言っているけれどもあくまで個人的な意見なのであしからず。